ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
2024.12.29(日)
11:30- 放送
(BS日テレ)
SNSの寵児、岡本真帆の歌はこんなにさみしそうだったのか、ということに、番組の冒頭ですでにわたしたちは気づかされるだろう。ざわざわとした雑踏の音と重なりつつしずかに読み上げられる短歌から聞こえてくる「あたしでいいの?」や、「ひとりにしない」が、深い井戸に落とした小石のように響いてくる。
番組のなかで編集者の村井光男は「十年前と比べると本屋の(短歌の)棚がひと棚増えている」と述べる。短歌ブームは何冊かのベストセラー歌集を生み出したが、岡本真帆はそのなかではもっとも人間くさい作品をつくる歌人である。作者の身体から切り離され、透明な表情をした短歌が〈バズ〉りやすい傾向があるのにもかかわらず、岡本の作品には、あくまでひとりの人間が生き、歩き、食べている気配がある。
東京と高知県の二拠点生活をする岡本の生活に沿って、この番組では二色の岡本真帆が切り取られる。岡本の故郷でもある高知県の、大きな川、鉄橋、商店街、神社、公園、記憶のなかを案内されているようにしずかで人の気配がなく、後半での東京での生活に人間の活気があるのと対照的だ。作歌の動機を深掘りするよりも、カメラが同じ景色を眺めつづける。このロードムービーのような映像がなによりも岡本の作家性をつたえてくる。彼女の作品に書かれているのは、ざわめきのなかで相対化される孤独だからだ。
簡単な言葉が使われているから。自信のなさや、ずぼらなところも見せてくれるから。岡本の短歌が共感を呼ぶのはそういった理由もあるだろうけど、ほんとうはみんなが「自分は雑踏のなかでひとりぼっちだ」と感じているからではないだろうか。番組最後の瞬間に注目してほしい。番組の一部でありつつ番組からはぐれ、ほんとうのひとりぼっちになった一首が残像のように目に残る。
EDGE 1 #44 / 2024.12.29