ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
日本の近代詩の風土にはなかった、新たな美の沃野をきり拓いた西脇順三郎。語学の才にめぐまれ、日本語のみならず、英語やラテン語でも詩作しながら、古今東西、各国の文学を研究し、大学ではイギリスやヨーロッパの文学を長年にわたって教えた詩人。
しかし、膨大な知の原野を逍遥して書かれた西脇詩の全体像は、いまもって計り知れない。そんな、西脇順三郎の謎につつまれた美の世界に、生前の西脇を知る新倉俊一、藤富保男、白石かずこ、吉増剛造、そして城戸朱理といった、現代を代表する詩人と学者たちが迫る。
英語で書かれ、イギリスで出版された西脇順三郎の第一詩集『Spectrum』や、日本語詩の第一詩集『アムバルワリア』など、貴重な初版本を繙きながら、詩人の生涯をカメラはたどる。1970年代に西脇順三郎の姿を映した稀しいフィルムや、オックスフォード留学時代の詩人、西脇が十代後半までをすごした故郷・小千谷との関係、同郷人による証言、西脇本人による朗読音源など、ふだんは視聴のかなわない映像・音声資料が満載。そこには、野原を彷徨い名もない百草つみに熱中していたことなど、「知の巨人」とよばれた詩人の意外でユーモラスな一面ものぞく。
言葉と紙の平原で、東洋と西欧の芸術文化が時空を超えて通いあい、人間と万物がとろけあって響く、西脇順三郎の詩学。本作は、その「新しい思考の世界」に、西脇ファンのみならず、多くの者を招待している。
EDGE SP #10 / 2011.05.21