ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
「心に刺青をするように」「浦島太郎の目」は、二篇に渡り吉増剛造が奄美を巡る番組であり、やがて追加撮影を経て、同番組のディレクター伊藤憲による映画「島ノ唄」へ結実される。そのいずれも、詩人吉増剛造なくしてはうつりえない光景、音、声にみちたドキュメンタリーだ。
吉増剛造と海の間に、蝶々がひらめき舞う。彼は、波が打ち寄せる渚にしゃがみ、地図をひろげ、幾十年かよいつづけている奄美、その島の印象を言葉にし、「われわれが海って言っているものが、もうすこし違う感覚でつかまえられてくる」と述べる。その瞬間、画面にとらえられた海は僅かに、新たな顔を見せる。吉増の声が、われわれの瞳をかえるからだ。
忘れてしまった道を、わたくしたちは、再び
辿りなおしているのかも知れなかった
(「ミルク(「彌勒」、……)」『「雪の島」あるいは「エミリーの幽霊」』)
道を辿りなおすことは、道を見出すことだ。終わりなく、再び。吉増剛造という詩人が、土地や人、言葉と邂逅し、たたづむとき、彼がそこにいるということで、異界へ降りいたったかのように、別の相を帯びはじめる。それは幾十年におよび詩を生きつづけた絶間ない実践にもたらされている。きらめく奄美の海を奥に、鳥が囀り、蝉時雨が響き、緑生い繁る草木の一角で、吉増剛造は、手ぶりをまじえながら詩を声にする。港の突堤に銅板をひろげ正座し「再、心に刺青をするように」と言葉をうちこんでゆく。
「ぞっとするほど美しい言葉がつかめなきゃ/世界は終末だ!」と疾走の詩人と称されもした六〇年代に書かれた詩篇「声」を読み、吉増は自身の辿りし道を語る。当時、時代の烈しさ、スピードの中に誰も解明できないような輝きがあった、だが、時を経て速度もゆっくりになり、輝きも微妙な灰色とか薄緑色になってゆく、そこにゆたかさが宿るのだと。そして、果てしない方へ行く、と言い添えるのだった。
EDGE 1 #5 / 2001.12.08