ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
「詩」を中心に置きながら、特異な装幀のアート・ブックから始まり、ロボットを使った演劇作品、他ジャンルの多数のアーティストを巻き込んだプロジェクト作品____など、常に斬新な表現で私たちを驚かせ、詩と言葉の表現の領域を拡張しつづけてきた、河野聡子、佐次田哲、関口文子、山田亮太による4人組ユニット=TOLTA。
今回、TOLTAは東京都現代美術館の「あそびのじかん」展に向けて、3つの作品を制作していく。このプロセスを追うことで、TOLTAの現在地点、すなわち詩と言葉の最前線を、私たちは目撃する。
TOLTA代表/詩人・河野はいう、いまは詩人や文学者の言葉でない、普通に暮らしているときに、思わないけど思う、そういった「野生の言葉」に、関心があるのだと。そうして、普段会社勤めだったり家事をしていたり、学校に通っている子どもたちから収集した「野生の言葉」たちが、TOLTAが仕掛ける詩の生成装置=《ポジティブな呪いのつみき》によって、詩となる。美術館を訪れる観客たちが、このつみきで遊びながら、楽しそうに詩を生み出し、読み上げる声が、耳にとびこんで来る(その「野生の朗読」の、なんと魅力的なことだろう…!)。「あやまればあやまるほど/あなたはお金になる」。
《漠然とした夢の雲》は、制作プロセスそのものもまた、ある種のパフォーマンス作品のようだ。TOLTAの技術担当・佐次田による、つぎつぎ変わっていく画面を見ながら、話した言葉が音声認識によって文字に起こされていく、「漠然とした夢」の語りを引き出す装置(この装置そのものがすでに詩的だ)に向かう、実験の被験者としてのミュージシャン、詩人、歌人…は、普段の自身の創作とは全く異なるメソッドに戸惑いながらも、自分たちの思いもよらない言葉たちを引き出されていく。たとえば、「洗濯物を畳む習慣のない母親は今頃なにをして生きているんだろう」。これらの言葉もまた、表現者による言葉というよりは、「野生の言葉」に近い。完成したオブジェは、この時代の漠然とした無意識の集合体のような言葉たちをたっぷりと含んだ「雲」となって、その一部をしたたらせて、展示室に圧倒的な存在感で浮かんでいる。
TOLTAの詩人・山田は「人間の内面から切り離されていても、言葉が力をもつことが、詩において大事」そして、「ロボットという存在という自体が、詩的な存在」と語る。TOLTAの俳優 劇作家・関口が、制作中のロボットの声をスマートフォンに吹き込んでいる。「ずっと楽しくて、終わるとさみしくなっちゃうような、遊びをしたいよ」。完成したロボットがいう。「コトバヲ カンガエルコトハ アソビ?」
TOLTAはそんな「あそび」を、これからも私たちに、そして言葉たちそのものに向けて、差し出していく。
EDGE 1 #33 / 2019.09.21