ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
2023.06.03(土)
08:00- 放送
(スカパー! 529ch)
「愚直」とか「純情」という言葉が似合う踊り手だと思っていた。かつて在籍した大駱駝艦で発表した処女作『さぐらんぼうい』では、故郷・山形で豊穣に実る果実と生まれ落ちる嬰児のイメージを重ねた自身の「はじまりの風景」を手繰り寄せ、確かめるような踊りが印象的だった。
退艦後は舞踏に止まらず、コンテンポラリー・ダンス、演劇のさまざまな踊り手、つくり手と旺盛に交流し、ソロ公演『サソハレテ』(2018)では、鍛え抜かれ、無駄を削ぎ落とした強靭な身体一つで、そこにある時空間と渡り合ってみせた。大駱駝艦時代とは打って変わったソリッドな作風には大いに驚かされたものだ。
本編は、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』から想を得た最近作『ウルスラ』(2022)のクリエーションを軸に、奥山と踊りの関係を紐解いていく。「自分の意思で動いているんじゃないように見えるのが理想」と語る一方で、振りも流れも、こと細かに定めてから舞台に臨むという奥山。マルケスの生み出したイメージの渦に想いを馳せ、コラボレーターのギター奏者・松本じろが奏でるフレーズに耳を傾け、それらが自らの身体感覚とピタリと触れ合う瞬間を慎重に捕まえていく過程をカメラは追う。
本編中に挟まれる屋外、街中でのパフォーマンス(映像)においても、奥山の立ち方、方法は変わらない。地を踏む足指、空中を移動する手先……アンテナのように周囲の環境、風景を感知し、自らの存在を介して踊りに昇華する——。「死ぬまでやるんじゃないですか」「踊らざるを得ない。踊りの病を患ってるから」。奥山ばらばは、今も変わらず愚直で、純情な踊り手として生きている。
EDGE 1 #40 / 2023.06.03