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詩人

朝吹亮二

No.102 詩人・朝吹亮二の「密室」

Ryouji Asabuki

官能をくすぐるシュルレアリスティックな詩行を紡ぐ詩人・朝吹亮二。フランス文学の研究者として教鞭を執った慶應大学の教授職を退き、コロナ禍のもとで「在宅生活」を送る彼の現在とは――

映像はギターのアップからはじまる。「中学三年生のころにジミ・ヘンドリックスに出会って……」と語りだす詩人は、ギター製作を近年のライフワークのひとつとしてきた。テレキャスター、レスポールタイプ、五弦ベース……、これまでに5本の楽器を作りあげた朝吹が新たに製作したのが、2020年に上梓した最新詩集のタイトルの由来でもある“中身が空洞になっている”エレキギター、「ホロウボディ」だ。
黒衣の女が朗読する映像と朝吹自身による朗読シーン、差し挟まれる不穏なイメージのピース、そして一転、詩人の素顔を映し出す自宅でのインタビュー。それらが交錯する全篇を、ノイジーなギターの音がつらぬく。

No.102 詩人・朝吹亮二の「密室」

光あふれる密室は白紙そのもの
性愛の星座のあとに/ない/という密室ができる
(『密室論』)

「書き始めのころから自分の部屋でしか書いたことがない」という「密室」の詩人はいま、フランス文学や研究書の並ぶかつての書斎を工房としてギターを作る。なだらかな曲線をえがく官能的な外郭。「ない」という存在が張りつめて在る孤独な密室としての中身。ギター製作とは、「ホロウボディ」とは、朝吹の詩行/詩業とぴったり重なるものであるのだ。

コロナ禍は世界の様相を一変させた。朝吹は自身の現在を「生活パターンに変わりはないが意識を相当侵されている」と語る。詩を書く理由を問われ、「書き始めてしまったから。詩は書き終わるようなものではない」とこたえた詩人は、番組出演に際して一篇の詩を書きあげた。

No.102 詩人・朝吹亮二の「密室」

季節から季節へ
さまざまなものやこと
さまざまなことやひとやものがうつろいで
茴香の苦みと(アメールピコンのような)
痺れともっと奥のふるえに
たたずんで秘法のように
くちうつしで
わたされる
愛の書法

『愛の書法』全文はこちらのサイトに公開されているファイルを参照されたい。生存の危機を密室から突破する性と愛の言葉。いま、孤独なボディを交差させることは出来ずとも、わたしたちは言葉で交感しあうことが出来る。詩人が処方してくれたこの超越的な詩行をとっておきの劇薬として、災禍に病んだわが身の空洞に引き入れたい。

No.102 詩人・朝吹亮二の「密室」
(text 小林坩堝)
作品紹介
朝吹亮二

朝吹亮二 (詩人)
1952年東京生まれ。
フランス文学者の父・三吉に伴い幼少期の4年間をフランスで過ごす。慶応大学文学部在学時から文学に目覚め、詩を書きだす。シュルレアリスムの提唱者アンドレ・ブルトンの「ナジャ」に衝撃を受け、ブルトン研究を始める。1979年博士課程時に第一詩集『終焉と王国』、82年には第二詩集『封印せよ その額に』を自費出版で刊行。87年には100編の詩を綴った『opus』で藤村記念歴程賞を受賞。89年に『密室論』、94年に『明るい箱』発表。しばらく詩の創作から遠ざかるが、2009年に『まばゆいばかりの』を刊行し第二回鮎川信夫賞を受賞。最新作は2019年に刊行された『ホロウボディ』

PLANNER / SUPERVISOR
城戸朱理
CAST
朝吹亮二/内田亜希子
CAMERA
松永朋広
CAMERA ASSISTANT
青木星弥
COSTUME
宮本茉莉 
EED
西村康広
AUDIO MIXER
富永憲一
SOUND DESIGN
玉井実
IN COOPERATION WITH
JENS
PRODUCER
設楽実/平田潤子/寺島髙幸
DIRECTOR
望月一扶

EDGE #102 / 2020.09.12

2024.02.17(土) 08:00-08:30 放送 (スカパー! 529ch)