ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
「戦後最大の詩人」とよばれた、田村隆一。鮎川信夫、北村太郎らと戦後現代詩の牙城となった詩誌『荒地』に参加した田村は、1998年、みずから「最後の詩集」と予告した『1999』を刊行し、永眠する-ジョン・ダンの詩句「死よおごる勿れ」を、絶筆に。
本作は、イギリスへ旅した晩年の田村隆一の映像をもとに、遺族の田村悦子氏、美佐子氏の証言を織り交ぜながら、詩人の日常と豊穣な言葉の世界をたどる。
1956年、第一詩集『四千の日と夜』の刊行から、都市の迷宮を漂泊しては鳥瞰し、詩の「垂直的」命題を追究してきた田村隆一は、鎌倉への転居を機に、その詩世界をさらに深める。それは、古都鎌倉の路地や寺の境内を散歩しながら、鳥や花といった自然、文化の古層と詩的に対話をかさね、過去から未来にまで自由に言葉の翼をひろげてゆく「水平的」な詩境だった。
酒と漂泊の詩人の終の栖となった二階堂、「退屈夢想庵」での静穏な日々。最後の海外旅行になった、イギリス南西部の荒蕪地ダートムア、ランズエンドの断崖。田村隆一は黄金色のスコッチを片手に、言葉は文化がつくる酒であり、自分は「言葉の料理人」と哄笑する。随所で聴ける詩人の洒脱な名言もさることながら、「文化人」を嫌った田村の、「人間」としての詩人の姿を身近に感じさせる、貴重なドキュメンタリーである。
EDGE SP #2 / 2005.01.22