ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
2026.07.18(土)
08:00-08:30 放送
(スカパー! 529ch)
詩とは何か、詩人とは何か。
平川綾真智は、いつもその問いをめぐらせている。
その日常は、絶対的な問いかけに満ちている。様々な記号とツールに満ちた現代において、彼ほど発信の可能性を探っている人物はいないだろう。詩集、詩誌、SNS配信、リアルイベントの開催、様々な配信イベントの企画と運営、詩を題材としたラジオ番組のパーソナリティー、メタバース空間における詩の個展という前人未踏の試み…、あらゆる詩の戦線での活動を展開している。
彼の周りには人が集まってくる。何よりも親しみある人柄であるからだろう。誰にでも分け隔てなく笑顔で相対し、様々な心の距離を飛び越えようとする力にいつもあふれている。その発信基地は鹿児島にある、とこの番組を見てあらためて分かった。「日常が言葉になる」として、言葉を求めて桜島を真ん中にして鹿児島の地をひた歩く姿は、南から詩の本土へ上陸せんとする幕末の志士のように凛として見えた。彼独特の革新的な眼差しと足取りは必ずや、詩を愛する私たちに新しい時代をもたらすであろうと確信した。
彼の創作の源泉は故郷熊本の風景にある。彼に命を与え、育み、詩の光を今も与えてくれていることが丹念に描かれている。熊本の震災が起きて十年が経ち、かつて破壊されてしまった風景の中を行き、再生のありかをたどる姿が丹念に映し出される。
それは彼が震災後の詩作に託してきた深い祈りと慈愛の念に通ずる。詩と同じぐらいに大切にしてきた合唱という表現形式のなかに、レクイエムを歌う彼の声の波間に、悲しい荒れ野にさしてきた光が、詩人をとらえた映像のなかに見えた気がした。
「私たちはこの世界においてはノイズなのかもしれない」。そのノイズを懸命に集めて、それをまた鳴らしていくエネルギー。慈しみに満ちた澄んだ歌声とノイズを集める視線が静かに絡み合いながら聞こえない調べとして、見終えた後もずっと耳に残る。この一本に収められた、答えの無い今を生き抜く詩人の道行きを見逃さないで欲しい。

EDGE 1 #49 / 2026.07.18