ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
2007年5月、神奈川国際芸術フェスティバルの一環としておこなわれた「聲明 西行マンダラ」のコンサート。天台・真言両派の僧侶による唱和と、日本を代表する雅楽・伝統楽器奏者の演奏が、満席の聴衆を魅了した。
この作曲を手掛けたのが、国際的な知名度も高い作曲家・武智由香だ。基本的な題材としては「Edge2」で放映された『時をつなぐ音の架け橋』と同じであるものの、本作は武智の内面というよりも、現代の音楽家、僧侶たちの唱和、そしてかつての西行の思想のハーモニーから生まれるもの――「音楽」という名の生きものをこそ、作品における主人公ととらえているかのようだ。一般的な意味あいで言えば、音楽とは、本来は作曲にくわえ、音楽監督もつとめる武智の創作物にすぎないものかもしれない。しかし、本作では、いわば産みの母でもある武智の手を離れ、独立した生命として空に舞う音楽のすがたにこそ、感嘆をおぼえることとなるのだ。
音楽のいのちとは、あるいは、輪廻転生のようなものであるのかもしれない。古来より存在する自然のすがたに共鳴を覚えた西行の思想、また聲明という表現から、現代の作曲家である武智が「何か」を受けつぎ、かつての生命が、いまを生きるわたしたちのもとへとふたたびよみがえってくるかのような。こうして生まれた生命の連環は、これからはどのようなかたちで受けつがれていくのだろうか。本作が提示したものはコンサートの「終わり」までの道のりというよりも、むしろ「はじまり」であるのかもしれない。
LIVE! EDGE #7 / 2007.09.01