ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
笠井叡は大いなる越境者だ。天才舞踏家と言われながら、ドイツに渡ってオイリュトミーを修め、帰国後も多彩な活動を展開。2014年に振り付けた『今晩は荒れ模様』では、錚々たる6名の女性ダンサー、上村なおか、黒田育世、白河直子、寺田みさこ、森下真樹、山田せつ子と共に、新たな越境に挑んだ。
本映像では、作品の稽古から本番までを、インタビューを交えて追っていく。振付の作業を「振付関係」と呼び、その対象が異性である場合、この作業は未知で予測不可能だとする笠井。彼が女性的な「供犠」を感じるという黒田は、音楽が高まるにつれてパッションを迸らせて踊り、周りを自分に引きつけるタイプだと分析された寺田は、中性的・透明的な雰囲気で舞う。また、笠井いわく「(台詞を)喋っている時は男性、踊っている時は女性」である森下と上村のデュオは、言葉と身体の独特な距離感を浮かび上がらせる。
さらに、自分で自分の体を壊す“女性の暴力性”が動きに結びつく珍しい踊り手だと笠井が指摘する白河は、内的相克を劇的に体現。一方、笠井から「アパティア(無感動)の動きがジェンダーを超えている」と評された山田は、子供とも老女ともつかぬ静謐な輝きを放ち、唯一、笠井とも踊る。そして創作の最後に足された、ドラァグクイーン姿の笠井とダンサー達によるフィナーレ。一次的・一面的な男性性/女性性の区分の先にある、存在そのもののエロスが立ち現れるさまは必見だ。
LIVE! EDGE #13 / 2015.07.11