ART DOCUMENTARY PROGRAM
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2004年10月21日から11月7日まで、東京・神宮前にあるワタリウム美術館内オンサンデーズで開催された「高橋昭八郎展〜翼ある詩〜」。そのオープニングにあたる、10月22日(於・オンサンデーズ)、23日(於・ワタリウム美術館)のイベントを、このフィルムは収録している。青年期に患った肺結核がもとで、酸素吸入器をつけながら出演したヴィジュアル・ポエットにして最後の前衛詩人、高橋昭八郎の晩年の姿と作品行為をおさめる貴重な映像となった。
会場の壁面はもとより、階段さえ作品でうめ、作品化してしまう、高橋昭八郎の視覚詩作品の数々。永らく待望されており、個展にあわせて上梓された、新しい視覚詩作品集『第一語の暗箱』(私家版、限定900部)にふれつつ、高橋は、世界という「暗箱にどんなレンズをつくるか。視るという領域をつくれるか。それを生みだすのが詩人であり、写るものが詩作品なんです」と語る。
新作「line poem 2004山川草木空」も出品。会場をおとずれた観客たちが作品のクリアパネル部分に色とりどりのマーカーで線や像、氏名などを自由に描くことのできる開かれた共同視覚詩で、参加者はつぎつぎにペンをとっていた。また、高橋の娘が3歳のときにデタラメに書いた文字を作品に引用した「cosmography for letter」(1969年)や、“境界”としての世界を開き、閉じつづけようとする「text for “To” 」(1972年)など、これまで一般の視線にはなかなかふれえなかった過去作品も展示され、高橋自身の貴重な解説も収録された。
高橋昭八郎は、観客とともに楽しみ、ときには挑発しつつ、語り、朗読し、アクションをしかける。「音という文字の書かれた一枚の紙 その裂かれてゆく音」や1990年代に制作された「聞こえるもの 聞こえないもの」をもとに、座る観客ひとりひとりを紙でぐるぐると渦巻き、結んでゆく。
記念シンポジウム「オブジェと人間を架橋する詩」の一部も、本編に収録。美術評論家で詩人の建畠晢、高橋とおなじく北園克衛の詩誌『VOU』に参加した白石かずこが、詩作品と朗読で高橋昭八郎にオマージュをささげた。さらに、高橋昭八郎は、いいはなつ。「もう視覚詩という言葉も、つかわないでいいんじゃないでしょうか」。高橋は、この2004年の個展をきっかけに、〈視覚詩〉からさえ羽ばたこうとしていたかのようだ。みずからの肉体の限界を予感しながらも。その意思は「zeroの断片」(2004年)に、深く静かに、だが熱く宿されているだろう。本フィルムは、新しく生まれつづける存在とそのポエジーだけを信じつづけた、高橋昭八郎という稀有な詩人の、けっして終わることのない「はじまり」を、永遠に刻印するだろう。
LIVE! EDGE #1 / 2004.12.25