ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
冬、夜に光を放つ通天閣を遠景に横断歩道を渡る人々、薄暮の路上で身を横たえる者、切りかわるシーンに、「大阪釜ヶ崎あいりん地域、全国最大の日雇い労働者の街、野宿生活をおくる者もおおい」とナレーションがはいる。本作は、特定の詩人がフォーカスされてはいない。大阪、新世界の喫茶店からはじまったNPO法人ココルームが運営する釜ヶ崎芸術大学に設けられた詩の教室につどう人々を巡るドキュメンタリーだ。
おれの夢は100かしょの住所を
かえること
てんてんとあっちこっち放ろうぐせ
その場所をくみあわせると
ばけものやしき
本篇に紹介される詩の一節だ。望むか否かにかかわらず、彼らがこの街に暮らしている理由は、生きる人のかずだけある。身寄りのない者、酒に賭博に人間関係に心身が傷ついたのだと告げる者、幾多の人がつどう教室では、詩作にあたり約束がもうけられている。ある主題をもとに、ふたり一組となり、それぞれに対話をくりかえことで、一篇の詩が書かれるのだ。相手の言葉、それを語る仕種に耳を澄まし、自分の気持ちを確かめると言う人がいる。この場所で出逢い、今にいたるまでの生涯に覚えた悔しさや、淋しさ、よろこび、自分でさえかかえきれない想いの重さを、たとえその一端であってもわかちあう営みが、詩に籠められている。たどたどしくても、無骨であってもかまわない。
自分のことがどうでもいいと思っていた人が、自分の人生をつつもうとする、そういう場面に何度かであったと創設者である詩人の上田假奈代は語る。尊厳なのだ、とおもう。対話、詩作をとおし、彼らが尊厳を与え受けとっていることこそが、大切なのだと。
EDGE SP #16 / 2015.03.07