ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
裾花川の河原を詩人があるく。川の流れる音。詩人はこの川のほとりに生まれ、育った。詩人は言う。「川には人の手によって加工される前の原始的な姿が残っている」。
今世紀初頭、詩の世界に大きな変化があった。「新しい詩人」と後に呼ばれる若い詩人たちの登場である。そのトップランナーのひとりが彼女、杉本真維子だ。
画面は突然大久保の街の喧騒に。詩人が20年来住む街、都会の喧騒は川の流れる音に似ている。
幼い頃、啓示のように詩を書き始めた。両親が「言葉じゃないものでつながっている」というその「わからないもの」に対して「絶対に私が解き明かしてやる」「これが私の闘いだ」と幼年期に目覚め、それを原動力として詩を書いてきた。が、それは突然消える。父の急死によって詩人は自らの詩作の根拠を失いかけるのである。「謎は謎のままおわってしまうのか」。かくして杉本真維子は裾花川に向かう。そこで詩人は何を見たのか。その遡行、すなわち裾花川を遡行するとともに自らの生をも遡行する旅もまた、突然終わる。道は雪に閉ざされていたのだ。詩人は言う。「目的地に行きつけないならそれでいい」「謎なら謎のままでいい」と。背後にはずっと川の流れる音が。
杉本真維子は父の死の五年後、詩集『裾花』により2015年、第45回高見順賞を受賞する。
EDGE 1 #26 / 2017.04.08