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詩人

文月悠光

No.104 詩人 文月悠光 光をさがして

Fuzuki Yumi

2021.01.23(土) 21:00-21:30 放送
(スカパー! Ch.529)

人は作品を見るときにこそ作家を見て、作家を見るときにこそ作品を見てしまう。作品だけ、作家だけを見ることはできず、その前提からテキストを読む立場がそれぞれに分岐していく。そうした表裏一体の怖さをもっとも知っている作家が文月悠光かもしれない。「女子高生詩人」というアイコン化された作家性を打ち消すためにはアイコンの否定だけではまったく足りず、いまだ抗いつづける。アイコンの否定によって作家は救われても、作品は救われないからだ。

No.104 詩人 文月悠光 光をさがして

文月は作品を通して他者に出会い、他者に寄り添うことについて語る。詩をあいだに置きながら。この詩人が言葉に救われたからこそ、過去の「私」を救いにいくような言葉に救われる読者がいる。言葉の共振において「過去の私」が「未来の他者」と繋がり、その時間と主体のズレによってのみ並走できる余地が詩の言葉にはある。

No.104 詩人 文月悠光 光をさがして

そんな私が入った器は
乾いた心に反してまだ幼く、瑞々しい。
周囲は、その瑞々しさを褒め称えるばかりで
乾ききった中身になど全く気づかなかった。
だが、乾いた私は、水に出会ったのだ。

水は読むことができる。

表紙をめくった指を伝い、押し寄せる水。
白いページと黒い活字だけが、私の色になった。
色盲になったようだった。

水は書くものだ。

(「渇き」より)

「乾ききった中身」に色をつける水。その水源のひとつでありつづけるために今後も文月の活動は多岐にわたるだろう。書かれたものに対し、書き手はそれに従属するしかないし、文月はそうした作品の要請を聞く耳が人よりいいのかもしれない。作品がその宿命をあらかじめ負っているとき、書き手はその要請に身体を沿わせていくことしかできない。

No.104 詩人 文月悠光 光をさがして
text 町屋良平
文月悠光

文月悠光 (詩人)
1991年北海道生まれ、東京在住。
中学時代から雑誌に詩を投稿し始め、16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少18歳で受賞。詩集に『屋根よりも深々と』(思潮社)、『わたしたちの猫』(ナナロク社)。近年は、エッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)が若い世代を中心に話題に。NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、書評の執筆など広く活動中。

PLANNER/SUPERVISOR
城戸朱理
CAMERA
松永朋広
SOUND OPERATOR
篠原貴則
CAMERA ASSISTANT
小寺安貴
ASSISTANT DIRECTOR
井上茜
EED
西村康弘
AUDIO MIXER
富永憲一
SOUND DESIGN
玉井実
PRODUCER
設楽実/平田潤子/寺島高幸
DIRECTOR
望月一扶

EDGE 1 #35 / 2021.01.23

2024.05.04(土) 08:00-08:30 放送 (スカパー! 529ch)