ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
「お花畑に猿がなる」「薔薇の花が散って蛾になる瞬間を何度も見た」……80年代「ラッキョウの恩返し」でデビューした平田俊子。どこか別の世界から投げつけられたような言葉は、本人曰く「向こうから飛んできたのをキャッチした」ものだと言う。彼女は一体、どこでその言葉をつかんでいるのだろうか? ともすればこの詩人は「死人(しびと)」として、この世とあの世の境目にいるのかもしれない。
時折8ミリフィルムの映像を交えるカメラは、平田と共に東京の片隅をさまよう。現実の彼女は「明るい昼間は身の置き所が無い」といい、人々の寝静まった深夜、自宅近くの散歩で言葉を拾っているのだった。どうしても破綻してしまう、人並みの生活。親しいひとと真正面から向き合うと、互いに傷つけあい、心がしわくちゃになる。そのしわを伸ばすための、詩作。暗がりから出たくないと思いながらも、舞踏家と舞台で共演し、言葉をぶつける相手を探している。
「死人」は墓地に佇み、肉体が消えゆくことの清々しさを語りながら、自分が生まれる前と死んだ後の時間に思いを馳せる。電柱や鉄塔など、人知れず傍らに立ち仕事をしているものへの愛を語り、「死者を運ぶ棺桶のような」観覧車の中で、自作の詩編『ターミナル』の一節を詠みながら、「詩人」の彼女は呼びかける。「私の名前は平田俊子です。貴方の名前を教えてください」と。今日も平田はこの世から少し離れたところで、ひとを恋しく思っているのだった。
EDGE 1 #7 / 2002.02.09