ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
國米隆弘、20歳。かつては将来を嘱望されたフィギュアスケートの選手だったが、現在はスケートリンクからは遠ざかり、詩の創作に専念する。通っていた大学は中退し、職にもついていない。
「自らが芸術にならなければ芸術は生み出されない」と語る國米。食事ひとつにしても、「死を享受する」ための重要な儀式であるとし、そのメニューや摂取にも厳密なルールを敷く。國米の生活や姿勢は、一般的な二十代の若者のそれとは大きなへだたりがあるだろう。パートナーの立ちふるまいもふくめ、まわりの環境もまた、かれの詩を高める手段のひとつに過ぎないかのようだ。
番組の中では、一見傲慢にも見てとれる國米の姿勢。新人賞への応募は「現代の詩壇を取り巻く風潮を取り込む気はない」と拒み、スタッフの要請でおこなった朗読についても、「(本来)言葉は放つものではない」と語る。しかしそうした姿勢こそが、詩人・國米そのものなのだ。かれの生活は文字通り、詩作(あるいは思索)のためだけに存在しているのだから。詩人・城戸朱理は、その才能を讃えつつ、國米の詩はひたすらに「高踏的」であると語る。そう、まさに「日常」を越境したところに、かれの詩、またかれ自身は存在しているのだ。驚くべきハイペースでかれは詩を紡ぎ、その「非日常」を拡張してゆく。
終盤、真摯な顔つきで海を見つめる國米。彼が見つめていたものは、遥か先の未来であったのかもしれない。番組放送から10年がたったいま、その表情はどのような変化を見せているのだろうか。現在の彼の目線は、どのような地点を見据えているのだろうか。
EDGE 1 #16 / 2005.01.15