ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
石田瑞穂、29歳。第一詩集『片鱗篇』を執筆中の姿が、今になると新鮮だ。当時、詩人は、青山の広告制作会社でコピーライターをしていた。資本主義的なイメージが氾濫する青山を歩きながら、そうしたイメージに回収されえない詩の言葉を探す。詩人の部屋には、極端に物がない。物には独自の生命、固有の魂があり、それは、所有することができない。しかし、物は、その生命を分け与えてくれるのではないか。物に触れることで、動き出す言葉を探す。若い詩人にとって、言葉もまた物にほかならない。個物のように立ち上がる言葉に触れることでも、詩が生まれる。
石田瑞穂は、高校二年のときのアメリカ留学で、自分が周縁の人間であることを思い知らされたと語る。この衝撃が、彼を突き動かした。イメージに覆われた現代社会のなかで、私たちの言葉は覆い隠されたものに届くのだろうか。石田瑞穂は、1980年代から90年代にかけて、日本では何かが壊れていったのではないかと語る。現実を喪失して、観念に覆われた世界。そんな世界では、人間も生きられないのではないか。詩人は、詩を書くことで生きていく方法を見つけたいと語る。このドキュメンタリーが制作されてから、石田瑞穂は、第一詩集『片鱗篇』(2006)を上梓、さらに第二詩集『まどろみの島』(2012)で第63回H氏賞、第三詩集『耳の笹舟』(2015)で第54回藤村記念歴程賞を受賞し、積極的な活動を展開している。その軌跡の発端と秘密が、ここにある。
EDGE 1 #12 / 2003.02.08