ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
都市の夜のかたわらに置かれたスクリーンに砂丘が映っている。彼方から鐘の音が聞こえる。
浄土宗専念寺。新宿区原町にあるこの寺でかれは生まれた。守中高明。僧侶であり、ヨーロッパ思想研究者であり、詩人であるかれは、複数の声をもっている。大学の研究室で、短くそろえられた髪にノーカラーのシャツに身を包んだかれは、慎重にことばをえらびながらこう言う、「この環境に生まれたことが、わるくはなかったなと思うのは、詩にかぎらず、ある種の作品を生み出すために必要なねじれといいますか、錯綜といいますか、それをあたえてくれたという気はしているんです」。
ねじれ、または錯綜。詩人は生まれながらにそれを引き受け、境界上にみずからの声を律してゆく。かれがプラトンを引きながら、共同体の批判者としての詩人の使命を語るとき、そのあやうく際どい立ち位置はいっそう鮮明なものとなる。
「詩を書くことによってしか支えられない何かがわたしのなかにあって、それに衝き動かされてわたしは詩を書き始めましたし、いまでも詩を書きつづけているわけです。ところがこの詩作というのはじつに奇妙な経験で、逆に書けば書くほど、よりあらたな解決しがたい何かが自分のなかに生まれてくる。ですからわたしにとって詩作というのは、そのような解消しがたいパラドックスの経験そのものだというふうに感じています」。
女優・蜷川有紀との朗読に、港大尋のピアノの旋律がかさなる。コラボレーション『シスター・アンティゴネーの暦のない墓』の上演。共同体がつくりあげる「歴史=物語」からさらさらとこぼれ落ちる、砂のような、灰のような記憶が、ひとつひとつの発語とともにざわめき始める。
EDGE 1 #4 / 2001.10.13