ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
ポピュラー音楽のプロデュースや作曲で名を知られる音楽家・ツルノリヒロ。2006年、50歳を前にした彼は、自身のルーツであるヴァイオリンを手にして新たな音楽活動を開始した。
東京・阿佐ヶ谷に生まれ、詩人の父と声楽を学んだ母のもとで育ったツルは、音楽的素養と文学的感性を与えられた。貸しピアノ屋で母から手ほどきを受けた彼にとって、音楽は常に身の回りにあるものだった。そんな彼が幼いときからヴァイオリンを手にして曲を作り始めたとしても、何の不思議はない。4歳から彼と共にあるヴァイオリンは、自身の心のなかを表すことをできる楽器なのだ。
ツルは、音楽の名門・桐朋学園の中等部まで進学するも、名曲をうまく弾きこなすことを第一義とするクラシック音楽に疑問が芽生え、卒業後は都立高校へ入学する。そこでロックバンドを結成し、コンテストで優勝するなどポピュラー音楽界で名を広め、サポートメンバーとしての仕事を得ていく。89年にはレコードデビューを果たし、その後も2枚のアルバムをリリースするが、90年代後半からは個人活動を中断、プロデュースや作曲活動に専念することとなる。
彼が個人活動を本格的に再開した理由は、ヴァイオリンが「好き」だという最もシンプルで根源的な動かしがたい思いがあったからだ。その感情は、まさに「天命を知る」年にかたちとなる。数多くのアーティストをプロデュースした実績を持つ彼でも、自身の音楽に対してはいかにすべきか自信がないという。究極的には自分の好きなことを好きなようにやることしかないと思い至ったツルは、自分自身のための音楽を追求していく。その穏やかな表情に、迷いはない。
EDGE 2 #25 / 2006.12.16