ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
ヤン・ローレンス。世界的な脳科学者であり、詩人。脳科学と詩。そこになんらかの関りはあるのだろうか。本篇では、その秘密が解き明かされることとなる。
人がものを見る、という行為を例にとってみよう。ローレンスは、同じ風景を見ても、各個人は異なった情報をそこから選んで、自分なりの心象を作り上げるのだ、という。それが各個人にとっての「世界」である。ならば、各個人によって「世界」とは個別のものになってしまう。これは各個人の脳の働きである。ナレーターをも務めるディレクター、伊藤憲の眼差しは、その各個人で異なった「世界」をまとめあげるものはなにか、という疑問へと向かう。その答えとして伊藤が用意したものは…。それは本篇において十全に語られているので、ここでは触れないでおこう。
篇中、ローレンスは、新宿の通称「ションベン横丁」、そして有珠山の噴火で避難指定地区となった場所を訪れる。ベルギー生まれの詩人にとってのまったくの「未知」の場所で、詩人の中で発動するのはなにか、要注目である。
そして本篇の圧巻は、ローレンスが自らの結婚式を挙げた神社を10年ぶりに再訪する場面だ。ローレンスは、神社の本殿内を行ったり来たりしながら、ここには○○が座っていて、ここには○○が…、と説明する。しかしそれは10年前の話。だがその10年の間にローレンスは母を亡くし、そして娘と息子を得る。そのローレンスが再訪する神社を見つめる眼差しには、10年前の結婚式だけが映っているのではない。その眼差しの先にあるものは…、本篇で確認していただきたい。
このように、人は様々な要素を混交させつつ、自分なりの心象を作り上げる。さて、そこに詩のことばはどのように入り込むのであろうか。そして詩と「世界」はどのように交わるのであろうか。それこそが、本篇を観る視聴者へと委ねられていることであろう。
そして、ローレンスの碧眼、その眼差しの先に捕えているものを、その碧眼の映像のみで伝えるような絶妙なカメラワークにも注目いただきたい。
EDGE SP #6 / 2009.02.28