ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
切り取られた“今”を目撃することはドキュメンタリーの一つの醍醐味だが、時が経ってその“今”を振り返る面白さもある。02年放送の本映像は、舞踊家・笠井瑞丈の26歳の日々を追ったもの。笠井叡という偉大な舞踊家を父に持ち、その父の留学先であるドイツで幼少期を過ごした瑞丈が、日本に帰国後、表現を模索しながら、初のデュオ作品に臨むまでが収められている。
映像の中で、デビューから瑞丈を見守ってきた詩人・野村喜和夫は、彼の世代の特徴を、動きながら様々なものをパッチワーク状に繋げる複合的なアイデンティティと分析する。ブレイクダンスにもコンテンポラリーダンスにも興味を持っていると語り、また、レッスン費用や公演費用を稼ぐために行う雑誌配送所でのアルバイトのことを様々な人材が集まるその場が楽しいと言う瑞丈。その姿から、のちに彼が展開する多彩な人材とのコラボレーションも予見できる。
瑞丈がドイツの地から漫画を通して想像を膨らませていた日本と、実際に降り立って映画「ブレードランナー」の未来都市のようだと感じたという日本。その日本で舞踊家として活動を始めて4〜5年という映像当時の瑞丈と、舞踊家として充実した活動を見せる2017年現在の瑞丈。本編は最後、のちに公私にわたるパートナーとなる上村なおかとのデュオ作品の本番へ。観る者の内で様々な過去と現在と未来が交錯する中、ダンスという刹那の芸術が煌めく。
EDGE 2 #8 / 2002.08.24