ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
2002年冬。雪が舞い、鳴き叫んでしぶく海を背に、一篇の詩を朗読する詩人・白石かずこの姿があった。「今日のユリシーズ」。三十年前にある亡命詩人と出逢い、書かれた詩「中国のユリシーズ」は改題され、いま、詩人の声をとおして蘇る。
ユリシーズ。ホメーロスの大叙事詩『オデュッセイア』の放浪の英雄は、詩人の原型としても、数々の芸術家たちにより国と時をこえて詩われ、描かれてきた。現代詩のユリシーズ、白石かずこは、雪の石川県小松市中ノ峠町にむかう。友人や、記憶と再会しに。
7歳で故郷カナダから日本に移住した白石かずこは、1970年に出版した『聖なる淫者の季節』で、つぎつぎと、既成の詩人のイメージをくつがえしていった。ジャズとの朗読、モデル活動、アメリカのビート詩人アレン・ギンズバーグやアフリカの詩人マジシ・クネーネら海外詩人との交流。紙のみならず、詩を声にのせて綴ってきた白石は、老境にはいり、いまも人間を翻弄してやまない「時代の運命」を幻視し、書こうとしている。
純銀に沈む北陸の町に、60年代に吹き込まれたブルースと白石かずこの声が響きわたる。そして、下北沢のライブハウスでの、ベーシスト・井野信義とのセッション。白石が声で奏でる「浮遊する母、都市」は、絶品だ。グローバル世代に突入し、新たに評価されようとするMother of Poets、白石かずこの肖像を、本作はあますことなく描いた。
EDGE 1 #11 / 2003.01.11