ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
舞踊家の両親(黒沢輝男、下田栄子)のもとに生まれ、踊ることを運命づけられた娘は、長じて、踊りを問うことをも天命とした。1980年代半ば、日常性を伴う身体や即興を用いて「ダンス」とは何か、その核心に迫る作品で、舞踊界に新風を吹き込んだ黒沢美香。2008年から2009年にかけて制作された本編は、踊りに明け暮れつつ葛藤した少女時代の思い出、NY滞在を経て新たな表現を発見、展開した経緯、さらにはスタジオでの日常をも織り込みつつ、「コンテンポラリーダンスのゴッドマザー」と呼ばれた彼女の創作姿勢を追う。
黒沢美香&ダンサーズの群舞が浮き彫りにする、ズレてしまう身体の愛らしさ。自らの身体の隅々にまで耳を澄まし、その声を踊りとして開花させるソロ「薔薇の人」シリーズ。カメラが捉えた作品、その佇まいは常に、確固たる意志と自由闊達な精神を持ち、痛いほどの繊細さとやわらかなユーモアを湛えている。
2016年12月、黒沢美香は、10年以上にわたる癌とのつきあいを終え、旅立った。身長148cmの小さく丸っこいゴッドマザーの、ダンスへの問い=生の息吹をとらえた貴重な記録がここにある。
EDGE 2 #31 / 2009.02.14