ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
詩人・野村喜和夫はだれも行かない場所へ行く。渋谷センター街は通過し、「国木田独歩住居跡」の杭へ。原宿のブティックは通過し、巨大で蒼古な給水塔へ。無限に無名で無用な「そこ」へ。
野村は自身を「彷徨派です」と語る。彷徨派?そんな文学派があるはずもなく、撮影スタッフをひきつれた詩人は、「われわれができるのは、外をぐるぐる歩きまわることだけです」と、楽しげだ。書斎は詩を行にする工房であり、言葉と肉体が外出しなければ詩とは出逢えない。歩行は、めまいに、やがて言葉のダンスになる。
鉄塔と電線が彩る曇天のグレーゾーンへ、コートを翻す詩人は無人の東京を独歩する。景勝やグルメや感動なんかは通過して。むしろ、灰色のさまよいをひきのばす不思議な欲望に感電したくて。徹頭徹尾なにもおこらないこのフィルムは、ゆえに、言葉と歩行だけでつむがれる無限のセンチメンタル・ジャーニーへ、つれだす。
EDGE 1 #1 / 2001.05.12