ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
大地震と津波で2万人近くが亡くなる事態となった東日本大震災。それから2年が経とうとしていた2013年2月、岩手県北上市にある日本現代詩歌文学館において「歌と舞の新しい頁」というイベントが開催された。50年にわたって現代詩の最前線をひた走ってきた詩人の吉増剛造と、現代の舞踏を代表するダンサーである笠井叡が、詩の朗読とダンスがパフォーマンスで競演し、大震災という災厄と向きあうイベントである。
吉増剛造はカメラの前で「震災のあと、陸前高田の入り口まで行ったが『お前にはこれ以上先に進む権利がない』という内なる声を聞き、引き返してきた」と語る。そして、この大災厄に言葉で向きあうために、出版することなく毎日原稿用紙に文字を書きつける、300枚以上におよぶ「詩の傍で」の執筆をはじめた。一方、「死者がわたしの体を動かしている」という確信を持つと語る笠井叡。子供の頃に海難事故で亡くなった判事の父親は、いつも書斎で判決文を書いていた。父の死後、小学5年になったとき、自分の手が勝手に文章を書き記す「お筆先」の現象が自分の身に起きるようになったという。岩手県遠野の河童淵で自作を朗読する吉増剛造。陸前高田の海岸で何かに憑かれたように踊りだす笠井叡。各人がそれぞれの方法で、大震災という「名づけ得ぬ出来事」と対峙していく。
EDGE SP #14 / 2013.09.21