ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
自由詩から出発し、句歌、舞台作品など、幅広い文芸活動をおこなう詩人・高橋睦郎。彼にとって詩は、一貫して「向こうからやってくるもの」であるという。「ポエジーが私を選ぶ」「歩きながら詩を拾う」「一行目を受け取る」「本質としての詩との、出逢いと痕跡のようなもの」…さまざまな言い方で表現される、彼のいう「絶対詩」とは、一体どういうものなのか。
鎌倉の海にほど近い、古い洋館に住む高橋。家にある様々な物品は、作者が誰かも分からない「詠み人知らず」のものが多い。時を経て作者は忘れ去られ、死者という固有性さえ脱した「無」の世界への憧れ。その背後には、生まれてすぐ父が死に、祖父母に預けられて育った高橋の過去にある、強い自己疎外感が去来する。どんなに恋い焦がれても、ひとりの人間の力では届かない存在があると知りながら、それを求め続ける気持ちが生じてしまう不条理。彼は言う。「名前とか自分にこだわるのは地獄であり、表現とは、それを越えようとすることだ」と。逆に言えば、それは生きている以上は、無とはなり得ず残る自意識の、何かを掴もうとする葛藤の現れでもある。
決して至らないと分かっていても、あるはずの“存在”を追い求め、詩歌を通してそれとの出会いを書き留める。詩人とはそういうものなのだ。どこかその確信を持ちながら、高橋は今日も、幼い頃見たはずの、なつかしい思い出の中にある街「シンゴー街」を探し続けている。
EDGE 1 #3 / 2001.08.11