ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
二〇〇九年六月二十日十二時半からおよそ二十時まで、現代詩手帖創刊五〇年を記念したイヴェント「これからの詩どうなる」が、新宿明治安田生命ホールで開催された。このドキュメンタリーは、多くの現代詩人が一堂にかいした一日の貴重な記録であり、同時に、Edgeシリーズの当時点までの総集編としても観ることができる。イヴェントの模様と共に、天沢退二郎篇、稲川方人篇、城戸朱理篇、白石かずこ篇、高貝弘也篇、高橋睦郎篇、野村喜和夫篇、平田俊子篇、藤井貞和篇、松浦寿輝篇、吉増剛造篇、和合亮一篇が随時、挿しはさまれ、われわれにとって詩とはなにかを再び問いかけてゆく。本作は、詩人の営為をおいかけ、迫りつづけてきたEdgeが、詩の現在にむきあう番組であることのひとつの結晶でもあるのだ。
思潮社小田久郎の開会の辞、谷川俊太郎の歌、吉増剛造のパフォーマンス、シンポジウム、吉本隆明の講演とつづくイヴェントは、「これからの詩どうなる」と題されたとおり、祝祭に終始することのない、詩を巡る切実な問いが、会場を漂いつづけていた。忘れ難い一日だ。未だ一読者として、だが、緊迫した想いで会場をおとづれたことを覚えている。新刊だけでなく、現代詩手帖のバックナンバーを古書店で見つけるたびに求めつづけ、幾百冊は本棚に詰めこみ、読んできた。六〇年代、七〇年代、八〇年代、九〇年代、二〇〇〇年代、その一冊一冊に、現代詩の歴史と現在を確かめる日々があったのだ。だから、この日、吉増剛造がカメラを掌に、「今日の主題のひとつ」だと囁き、リアルタイムに岡田隆彦の肖像写真を壁におおきくうつし、およそ半世紀前に書かれた吉増の詩「古代天文台」と岡田のヴィジョンに繋がりを確かめ、「生の血の脈がつながるように」と言葉にしたとき、心底、感動した。彼らだけでなく、現代詩手帖創刊五〇年、その歳月をつらぬく「脈のつながり」をさえ覚えたのだった。
書かれるべき詩がある、かつても、今、これからも。
北川透、藤井貞和、荒川洋治、稲川方人、井坂洋子、松浦寿輝、野村喜和夫、城戸朱理、和合亮一によるシンポジウム中、「詩はどうなるか」という問いに対し稲川方人は、深い沈黙を湛えたのち、「敵対すべきものははっきり敵対し、議論すべきは議論する、解体すべきものは解体する、破壊するものは破壊する、という意志を持った詩人が一人でもいれば、現代詩は信頼に足る文学の形式を失わないと思います。」と述べたとき、登壇者、参加者だけでなく、誰もが、そのような「一人」なのかと問われた。はたされるべき詩の実践が必要なのだ。このシーンに、イヴェント会場に置かれたラックにならぶ五〇年分の詩手帖をおもいおこした。現代詩が書かれ継がれた具体的な重みがそこにあったのだ。
EDGE SP #7 / 2009.12.26