ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
学生時代からその天才ぶりを遺憾なく発揮していた作曲家・武智由香。芸大を首席で卒業し、その後サントリー音楽賞、村松音楽新人賞などを受賞。現在は英国王室音楽院博士課程に在学中である。
本作は武智に、英国王室音楽院およびアメリカの名門音楽院・ジュリヤード音楽院から室内オーケストラ曲の作曲が委嘱されたところからはじまる。演奏場所はニューヨーク・リンカーンセンターと、英国王立音楽院。アメリカ、イギリスそれぞれの、まさに音楽の殿堂とも言える会場である。それだけに武智もまた、さらなる高みへと登りつめることがもとめられた。彼女ははたして、どのような音を作りあげるか。
作曲のため、夏休みを利用して生まれ故郷の鎌倉に帰省する武智。すでに世界的な知名度をもつ彼女だが、たとえばロンドンであじさいを見た際には、今ごろ日本のあじさいは開花したころだろうか、と故郷を想い出すことも多いという。いわば鎌倉は自身の原点の場所であり、鎌倉で自身を見つめなおしながら、自身の「音」の原点をも見出していく。
「音に対して、ものすごい素直に」取り組んでいると語る武智。西洋音楽の既成の概念にとらわれることなく、自身の耳をつうじて聴きとった音を、自身の音楽として再構成していく。いうなれば、世界に存在する数々の音を鋭敏にくみ取っていき、それらをもとあった場所へ――世界へとあらたに響かせていくのだ。楽譜に書かれたものは、それ自体は単なる「情報」に過ぎないが、武智の手によって「音楽」として放たれるとき、わたしたちは生命の誕生を見たかのような感動につつまれる。そして、次なる「未だ来たらざる音」をもとめて、武智の挑戦は続いていく。
EDGE 2 #18 / 2004.11.27