ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
笠井叡と麿赤兒。2012年11月に発表された二人の共演作『ハヤサスラヒメ』は、日本の舞踏、ダンス界に「事件」とも呼べるインパクトを残した。刻一刻と変わり続ける身体から流れるように踊りを引き出す笠井と、人間存在の根源にある闇に、じっと耳を澄ませ肉体を象る麿。同じ年に生まれ、同じく舞踏の創始者でもある師・土方巽と出会った二人は、共に「舞踏」の道を歩みながら、40年にわたって交わることがなかった。
「舞踏とは何か」と問えば、かたや「言葉」と答え、かたや「ぼそっとある身体」と答える−−。本編では、そんな二人の「対照的」な舞踏家が歩んできた道、半年近くにわたって行われた稽古、そして迎えた本番の様子が、詩人・城戸朱理のまなざしも交えつつレポートされる。「ハヤサスラヒメ」とは、穢れを光に変える古代神。疾風のように舞う光と大地に根ざす闇との邂逅の物語は、笠井を中心とした「天使館」と麿率いる「大駱駝艦」が手をたずさえてさかのぼる始源への旅のようでもある。互いを揺さぶりつつ、拮抗し合う彼らの舞踏は、やがて交じり合い、激しい奔流となって、客席をも呑み込む。ベートーベンの第九『歓喜の歌』が鳴り響くなか、私たちは、言葉も身体も渾然一体となった、「おどり」の始まりの光景に出会うのだ。
EDGE SP #13 / 2013.04.20