ART DOCUMENTARY PROGRAM
スカパー! Ch.529にて放送中
俳壇の郊外からいま、怪物が進撃しつつある。俳句といえば、日本の古き良き伝統文化と考える人にとって、関悦史は日本庭園を踏みにじるゴジラに等しい。この番組では、「平成の怪物」と評される関の作句活動に、はじめてカメラが肉薄している。
東日本大震災で建造物の倒壊などの被害を受けた関。被災状況を証明する書類を届けに行った土浦の役所で見た桜は、白けて見えたという。
呆けゐて死なざりしかば花うるさし 悦史
「花うるさし」の一語に込められた、伝統美へのアイロニー。関は、日本美の代表ともいえる桜も、風流とは程遠い観点で俳句に詠む。
あるいは、同世代の仲間と動物園に出かけていき、レストランのテーブルの上に短冊を並べてバラバラの言葉を無作為につなぎあわせてゆく関の姿は、宗匠帽をかぶって桜の木の下で短冊に筆を走らせる俳人の姿と、どれほど隔たっていることか。俳句を「悪ふざけ」と称し、「イタズラをしかける」気持ちに近いと言う関。子供の頃に負った脊椎の怪我のために労働に従事することがかなわない関にとって、
地下道を蒲団引きずる男かな 悦史
の「男」は、世外の徒である自画像でもある。彼にとって、この世はすべて異界。スーパーで買ってきた惣菜をかきこみ、旧式のノートパソコンに「メモ帳」機能で書きつける句は、伝統的な季語から現代風俗までを対象とし、哲学や芸術用語も織り交ぜ、まさに混沌の現代社会そのものの写し絵なのだ。
EDGE 2 #34 / 2013.03.09