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詩人

谷川俊太郎

Poet in Oblaat
詩人・谷川俊太郎の(いま)

Shuntaro Tanikawa

2011年、夏。東京・芝浦で谷川俊太郎「はだか」展が開催されている。
「ひとりでるすばんしていたひるま/きゅうにはだかになりたくなった/あたまからふくをぬいで/したぎもぬいでぱんてぃもぬいで/くつしたもぬいだ」
会場には詩人の詩が「展示」されている。来場者は、ホワイトキューブのそこかしこに書かれた一行いちぎょうを、読みながら足をすすめてゆく。

Poet in Oblaat 詩人・谷川俊太郎の(いま)

詩人・谷川俊太郎が参加するデザインレーベル「オブラート」は、詩を新しい読み手に向けてひらこうとするこころみである。詩をTシャツにプリントした「Wearable」や、プレパラートにわずか200ミクロンの詩が刻まれた「poemicro」などがある。
オブラートで苦い薬を嚥みやすくするように、詩を異なるメディアで包み、日常に配置すること。1952年に『二十億光年の孤独』でデビューして以来、半世紀以上にわたって詩作と同時に作詞や絵本などの分野に活動をひろげてきた詩人は、「詩をひらく」ことで詩壇の閉鎖性にたえず異を唱えてきた。

Poet in Oblaat 詩人・谷川俊太郎の(いま)

秋、横浜の「象の鼻パーク」でオブラートの新しい作品づくりが始まった。省エネとアートをテーマにした横浜市のこころみ「スマートイルミネーション横浜」の一環である。参加する詩人は谷川と、オブラート同人の覚和歌子。企画されたのは、朗読の声をFMで飛ばしカーラジオから音を出す、自動車のヘッドライトの灯りだけによる朗読会。このアイデアは、東日本を襲った震災後の計画停電の光景から発想されたという。谷川と覚は、この日のために合作した長篇の対詩を読んだ。
横浜の港湾風景から想起された覚のことばは、谷川によって予期せぬ方向へ、いや、あらかじめ約束されたかのような方向へと舵を切ってゆく。それは先の震災への、詩人による応答のようなものだった。

Poet in Oblaat 詩人・谷川俊太郎の(いま)

「世界中の波のすべてはこの港から生まれます/
過去をいとおしむあまり未来から盗むことのないように/
生きている私の中でもう何も死に絶えるものがないように」

「津波で消え失せたその港の瓦礫から/
祈りの言葉としか思えないメールが届いた/
ナビもエアコンもないぼくの四駆で/
彼女はふるさとへと向かったのだ」……。

詩人にとって、3月11日の災厄とは何だったのだろう。「ぼくははじめから詩を疑い、ことばを疑いながら書いてきた人間だから、あんまりことばの力というものを過大に信用していないんだけど、3.11以降のことばの状況をみていると、なんか一種の非常事態が起こったときみんなことばに頼るんだなっていうふうには思いましたね。それに現代詩が応えているかどうかは疑問なんですけど」。
ことばを疑いながら、なおことばを書き、発してきた詩人。想像を絶する災いのあとで「ことば」を希求する時代の欲望に、その日かれは応えたのだろうか。
みなとみらいの港湾風景を背後にしながら、車座になったヘッドライトの灯りだけが点るなか、ふたりの詩人の声が交互にラジオから響きわたる。それはまるで、うしなわれた魂を慰撫する、鎮魂の儀礼のようだった。

Poet in Oblaat 詩人・谷川俊太郎の(いま)
(text 萩野亮)
谷川俊太郎

谷川俊太郎 (詩人)
1931年東京府生まれ
1952年第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。 詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳、脚本、作詞など幅広く作品を手掛けてきた日本を代表する詩人。近年はアプリを利用するなど、 詩の可能性を広げる試みを行う。

谷川俊太郎

oblaat (オブラート)
詩を本の外にひらくことを活動コンセプトに、アート、プロダクト、イベントなどの活動を行う同人組織。詩人・谷川俊太郎、プランナー・松田朋春、デザイナー・則武弥、出版プロデューサー・松崎義行等によって2010年に発足し、プロジェクトごとに詩人やアーティストがメンバーとして合流する。顕微鏡で読むガラスの詩集「poemicro」他、詩を用いた多数の製品がある他、アートユニットとして美術展やアートフェスティバルへの参加も数多い。http://oblaat.jp

PLANNER/SUPERVISOR
城戸朱理
NARRATOR
中村優子
CAMERA
金沢裕司/佐藤洋祐/松浦祥子/角山正樹/山崎裕
SOUND ENGINEER
山根則行/井澤賢博
EDITOR
西村康弘
AUDIO MIXER
富永憲一
SOUND EFFECT
玉井実
AD
田原純
PRODUCER
清田素嗣/寺島髙幸・設楽実
DIRECTOR
平田潤子

EDGE SP #11 / 2012.04.21

2024.02.17(土) 08:00-08:30 放送 (スカパー! 529ch)