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詩人

蜂飼耳

生と詩 いまにもうるおっていく

Hachikai Mimi

背後にススキの揺れる畑、だろうか。日暮れ近く、穏やかな暗さの光に包まれて植物だけが息づく場所に、ふんわりしたシルエットの白い服を着たひとがこちらを向いて佇んでいる。誰? これが詩人・蜂飼耳? いや、きっと違う……となぜだか思っているうちに詩が流れ始め、〝遠いものから近づいてくる〟(詩「腕を駆けてくる狼」)という言葉とともに、白いひとがすうっとアップになった。

生と詩 いまにもうるおっていく

幻想的で静かな冒頭のシーンに、引き込まれていく。
蜂飼耳本人はそのあと登場し、座間市の谷戸山公園とわかったその場所を歩きながら、森や野原で過ごした幼い頃の記憶を語ってくれる。「自然のなかの環境と紙の上の時間はつながって」「その間を行ったり来たりしていた」「言語も自然の断片」――そう話す彼女の落ち着いた声を聞き、ああ、あの白いひとは現実の自然と紙の上の自然との間に滲出する詩の気配そのものなのかもしれない、と感じた。

生と詩 いまにもうるおっていく

放っておけば消えるもやもやしたもの。詩の気配そのものとして、白いひとは水辺や夜の橋にあらわれ、ときに詩人がお茶を飲む喫茶店の後ろの席に座っている。日常に束の間キレツを生じさせる。浮遊感があるのに濃密で、不思議に可愛くて、どこか不気味で、懐かしいのに見知らぬ生きものに似た存在。それは蜂飼耳の詩の手触りに似ている。

生と詩 いまにもうるおっていく

学生時代を過ごした横浜では、詩「太陽を持ち上げる観覧車」のもとになった観覧車が空の一部のように回っている。〝ふたりになるため〟の透明なボックスの中、詩人と白いひととが向きあい、満ちる緊張と官能の時間。そうしてうるおっていく頂で〝口のごとく〟開いたドアから、詩は滴り落ちてくる。
滴った言葉を受けとめる海辺のラストシーン、詩人と白いひとはすれ違っていく。終わりではなくいつかまた始まるのだと約束するみたいに。そこでは波が、彼方へ、読むひとへ、詩の言葉を届けようとめぐり続けている。

生と詩 いまにもうるおっていく
(text 川口晴美)
蜂飼耳

蜂飼耳 (詩人、作家)
1974年神奈川県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。
詩集『いまにもうるおっていく陣地』で第5 回中原中也賞を受賞。詩のみならず、小説、エッセイ、絵本、書評などでも活躍する。他の著書に、詩集『食うものは食われる夜』(第56回芸術選奨新人賞)、『隠す葉』 『現代詩文庫・蜂飼耳詩集』、『顔をあらう水』(第7回鮎川信夫賞)、小説『紅水晶』 『転身』、文集『孔雀の羽の目がみてる』 『空席日誌』『おいしそうな草」、訳書『虫めづる姫君 堤中納言物語』などがある。

PLANNER/SUPERVISOR
城戸朱理
CAST
蜂飼耳/佐藤玲
CAMERA
松永朋広
VIDEO ENGINEER
猪股伸晃
CAMERA ASSISTANT
青木星弥
COSTUME
宮本茉莉
EED
西村康弘
AUDIO MIXER
富永憲一
ASSISTANT DIRECTOR
杉山あかね
PRODUCER
寺島髙幸/平田潤子/設楽実
DIRECTOR
望月一扶

EDGE 1 #31 / 2019.01.19

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