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詩人

吉増剛造

心に刺青をするように

Gozo Yoshimasu (part.1)

「心に刺青をするように」「浦島太郎の目」は、二篇に渡り吉増剛造が奄美を巡る番組であり、やがて追加撮影を経て、同番組のディレクター伊藤憲による映画「島ノ唄」へ結実される。そのいずれも、詩人吉増剛造なくしてはうつりえない光景、音、声にみちたドキュメンタリーだ。
吉増剛造と海の間に、蝶々がひらめき舞う。彼は、波が打ち寄せる渚にしゃがみ、地図をひろげ、幾十年かよいつづけている奄美、その島の印象を言葉にし、「われわれが海って言っているものが、もうすこし違う感覚でつかまえられてくる」と述べる。その瞬間、画面にとらえられた海は僅かに、新たな顔を見せる。吉増の声が、われわれの瞳をかえるからだ。

心に刺青をするように

忘れてしまった道を、わたくしたちは、再び
辿りなおしているのかも知れなかった
(「ミルク(「彌勒」、……)」『「雪の島」あるいは「エミリーの幽霊」』)

道を辿りなおすことは、道を見出すことだ。終わりなく、再び。吉増剛造という詩人が、土地や人、言葉と邂逅し、たたづむとき、彼がそこにいるということで、異界へ降りいたったかのように、別の相を帯びはじめる。それは幾十年におよび詩を生きつづけた絶間ない実践にもたらされている。きらめく奄美の海を奥に、鳥が囀り、蝉時雨が響き、緑生い繁る草木の一角で、吉増剛造は、手ぶりをまじえながら詩を声にする。港の突堤に銅板をひろげ正座し「再、心に刺青をするように」と言葉をうちこんでゆく。
「ぞっとするほど美しい言葉がつかめなきゃ/世界は終末だ!」と疾走の詩人と称されもした六〇年代に書かれた詩篇「声」を読み、吉増は自身の辿りし道を語る。当時、時代の烈しさ、スピードの中に誰も解明できないような輝きがあった、だが、時を経て速度もゆっくりになり、輝きも微妙な灰色とか薄緑色になってゆく、そこにゆたかさが宿るのだと。そして、果てしない方へ行く、と言い添えるのだった。

心に刺青をするように
(text 菊井崇史)
吉増剛造

吉増剛造 (詩人)
1939年東京府生まれ
1964年詩集『出発』でデビュー。初期の代表作『黄金詩篇』は第 1 回高見順賞を受賞。半世紀以上詩壇で活動を続けている。

PLANNER/SUPERVISOR
城戸朱理
語り
李鐘浩
CAMERA
夏海光造
AUDIO
石井有生
EDITOR
池田聡
MIXER
吉田一明
AD
松尾美亜
PRODUCER
寺島髙幸/大伴直子・設楽 実
PRODUCTION MANAGER
清田素嗣
DIRECTOR
伊藤憲

EDGE 1 #5 / 2001.12.08

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