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文筆家

荻原魚雷

寝てもさめても古本暮らし

Gyorai Ogihara

東京、高円寺。いくつもの路地に古本屋が点在するこの町に、かれはひっそりと棲んでいる。
文筆家、荻原魚雷。かれはたいそう奇特な古本蒐集家でもある。ヴァルター・ベンヤミンか松岡正剛のような丸眼鏡をかけ、飾り気のない質素なシャツを身に着けた小柄な体躯の、その静かなたたずまいには、あらゆる本という本を経てきたことの、どこか謎めいた風格のようなものがある。蒐集家がとりわけ瞳を輝かせるのは、古本屋の軒下に並べ置かれた均一本。「背表紙で年代がわかる」、「まず奥付を確認する」、「迷わず買えるのは五〇〇円まで」、「値段シールを剥がずことが愉しい」。そうそう、そのとおりだよ、魚雷さん! 中央線沿線に部屋を借り、本を買い、酒を呑み、ものを書き、バイトをし、そしてまた本を買う――。わたしの話かと思った。いや、わたしにかぎらず古本好きは、たいていこんな生活をしているものだろう。

寝てもさめても古本暮らし

ところで、かれが古本蒐集に目覚めたきっかけは、一冊の本だったという。辻潤『絶望の書』。この本に電撃を受けた若いかれは、アナキスムに傾倒し、社会運動へと身を投じてゆく。そのなかで大杉栄などアナキスムについてのあらゆる本を経ていった。
そして、アナキストの文筆家を「転向」させたのもまた、一冊の本だった。吉行淳之介『軽薄派の発想』。イデオロギーから解放されたかれには、本だけが残った。
「どんな世の中になっても、のんびりぼんやりしながら、だらだら暮らしたい。そういう戦い方もあるのではないか」(「「持続可能」ということ」)。
高円寺、夜。蒐集家は、きょうも古本を渉猟している。

寝てもさめても古本暮らし
(text 萩野亮)
荻原魚雷

荻原魚雷 (文筆家)
1969年三重県生まれ
大学在学中からフリーライターとして執筆活動をはじめ、そのまま中退し、現在に至る。著書に『古本暮らし』、『活字と自活』『書生の処世』『閑な読書人』ほか、編者として『吉行淳之介エッセイ・コレクション』(全4巻)がある。

PLANNER
城戸朱理
NARRATOR
大島葉子
READER
仲井陽
CAMERA
山崎 裕/髙野大樹
AUDIO
池田健
CA
武井俊幸
EDITOR
鈴尾啓太
EED
池田聡
AUDIO MIXER
深井翠子
SOUND EFFECT
玉井実
AD
杉山あかね
PRODUCER
寺島髙幸/平島進史
DIRECTOR
平田潤子

EDGE 2 #36 / 2016.02.13

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