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歌人

水原紫苑

北の桜 KITA NO SAKURA

Shion Mizuhara

一度も見たことのないみちのくの桜を慕い、歌に詠んできた歌人・水原紫苑。古典文学と芸能に精通し、桜の精神史に深い知見を持った水原がいま、北に向かい、憧れの桜とじかに対面を果たそうとしている。
太宰治が『津軽』の中で讃えた岩木山山麓の桜に、「神の顔」を見た歌人。さらに弘前城郭の桜に、どこへもゆくことのできない北の桜の切実さを感得する。さらに歌人の道行きは津軽海峡を越えて、北海道の大地へ及ぶ。文化のレッテルの貼られていない駒ヶ岳の桜で、言葉が解体されるような体験をし、トラピスト大修道院の八重桜に、天使の接近を予感する。一口に北の桜といっても、その表情はさまざま。だが、水原の言葉と歌は、確実にその個性を捉えていく。
最終地点は、水原にとって「夢の場所」であるという、函館の五稜郭。

北の桜 KITA NO SAKURA

星形の城址もとほれりいくたびかさくらの中に銃身光る
紫苑『客人』

一度も訪ねたことがなかった、夢の桜を詠んだ歌。この夢が、旅の中で、うつつになる。「あ、きれいだ。やっぱりきれいだった」。水原の口からこぼれた率直なひとことが、古今の言葉を知り尽くした歌人のものであるからこそ、胸を打つ。それしか言い得ないほど、感動が深いのだ。映像越しに、ひとりの歌人の積年の念願がかなう現場に立ち上がっていることの、至福を覚える。

北の桜 KITA NO SAKURA

星形に囚はれたりしさくらばな熊宇宙よりの死者を待ちつつ
紫苑

桜の花を透かして見る青い空に、アイヌの神である「熊」の到来を期待する。水原は、「桜を見る人」ではなかった。「桜を仰ぐ人」だったということに、このとき気づいた。映像の中で、桜を見る水原の目には、常に遥かな青空もまた映っていたことに。

北の桜 KITA NO SAKURA
(text 高柳克弘)
水原紫苑

水原紫苑 (歌人)
1959年神奈川県生まれ
1989年、第一歌集『びあんか』を刊行し、翌年に現代歌人協会賞を受賞。第3歌集『客人』では第1回駿河梅花文学賞受賞。さらに第4歌集『くわんおん』で第10回河野愛子賞受賞を、第7歌集『あかるたへ』で第5回山本健吉文学賞・第10回若山牧水賞を受賞している。著作には、歌集の他、エッセイ集『星の肉体』『空ぞ忘れぬ』『うたものがたり』『京都うたものがたり』 などがある。

PLANNER/SUPERVISOR
城戸朱理
NARRATOR
河井英里
CAMERA
木村重明
CA
平澤伸也/高橋誠二
VIDEO ENGINEER
長谷川智亮
SOUND EFFCTS
玉井実
EDITOR
池田聡
AUDIO MIXIER
富永憲一
ASSISTANT DIRECTOR
平田潤子
PRODUCTION MANAGER
清田素嗣
PRODOCER
寺島髙幸/大伴直子・設楽実
DIRECTOR
井上春生

EDGE 2 #11 / 2003.05.24

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